「クリード 炎の宿敵」映画評 後編。勝って伝説になった男、負けて全てを失った男

映画
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どうも、前回の初ブログでは志半ばで朽ちてしまったので今回は後編を書こうと思います。今回はついに本編、前回全く触れられなかった「クリード 炎の宿敵」です。

冒頭、アヴァンタイトルにて
屈強な男がソファで眠っていると、ある男が近づいてきます。
ゴツっ
近づいてきた男は眠る男の腹に拳をあてます。
二人はこの物語のかたき役、ドラゴ親子。

ドラゴ親子

この一瞬で、物語のスポットライトを浴びずに生きてきた二人をシンプルにクールに物語る最高のオープニング。

そしてもう一方の物語の幕開けは試合前とおぼしきアドニスの控室から。アドニスは前作で愛車を賭けて闘いボコボコにされたドニー“スタントマン”ウィーラーとの世界線に挑みます。
セコンドに着くのはもちろんロッキー。

ロッキー・バルボアとアドニス・クリード(こっちは親子ではない)

緊迫感からか、ヒヤリと冷たく見える控え室がスローなロッキーの語りで暖かく安心感につつまれた空間に変わります。
ブン、ブン、ブン、二人は座り込み一緒に頭をゆっくりと揺らします。
ロッキーは静かに、そして優しくアドニスの緊張をほぐし、それでも発する言葉は熱く、ハードに、アドニスの闘志を燃やします。

そして世界戦のリングへ、前作でボコボコにされたウィーラーにアドニスは圧勝しヘビー級世界チャンピオンとなります。

チャンピオンとなったアドニスですが強大な敵が行く手を阻みます。そう、冒頭に出てきたドラゴ親子です。父のイワン・ドラゴは前編でも書いた通りアドニスの父親アポロをリングの上で殴り殺した「ソ連のボクシングサイボーグ」と呼ばれた男。

若かりし頃の父ドラゴ(ロッキー4より)

しかしそのドラゴはその後にロッキーに死闘の末KO負けを喫します。
元世界チャンピオンとは言えど伝説のボクサー、アポロ・クリードをリング上で葬ったドラゴは東西冷戦期のソ連の機運もあり、国中で英雄のように扱われ、何人もの科学者に囲まれトレーニングを受けていたほどのボクサーでした。

しかしロッキー戦での敗北を期に、彼の周りから人々は離れていきます。
英雄ともてはやした政府、トレーニングをサポートしていたチーム、そして愛していた妻もさえも彼の前から姿を消しました。
以降33年間、父ドラゴは負け犬として生き続けました。しかし彼は復活に燃えていました。離れたやつらを見返すために、もう一度あの輝かしい場に戻るため。
もう一度、自らの強さを証明するために。

父ドラゴもかつてのロッキーと同じように自分自身の存在を証明するために負け犬と呼ばれながらも闘い続けていたのです、誰に見られることなく、スポットライトを浴びることなく。
そしてその思い全てを息子であるヴィクター・ドラゴに託しました。
父ドラゴは子ドラゴに自らのボクシングスキルの全てを教え込みます。
そして同時に強さとは何か、強さとはいかに素晴らしいか、強さは全てをもたらし、弱きは全てを奪っていくという事を教え込みます。
父ドラゴが教えたのはそれだけです、父としてはそのほかに何も教えませんでした、というより何も教えられなかったのです。強さを教える事以外に彼は何をすれば良いかわからなかったのです。妻に逃げられた彼は子ドラゴに愛を伝える事ができなかったのです。その証拠に映画の中にはドラゴ親子が言葉を交わすシーンはほとんどありません。
それでも子ドラゴは父ドラゴの期待に答えるためだけに生きてきました。常に強さを求め、強くある事が父に愛される事だと信じていたのです。そして彼は鋼のように強靭な肉体、父にも勝る破壊力を手にしました。
向かいくる相手は瞬殺で倒し、ぐんぐん頭角を表し、ついにはアドニスへの挑戦権が得られるところまで来ました。

挑戦のために親子で渡米した際、父ドラゴはロッキーが経営するイタリアンレストランでロッキーと33年ぶり(33年ぶりかは不明)の再開をします。レストランの壁一面に飾られたロッキーの栄光の写真を見て父ドラゴは言います。

良い写真だな。だが、俺が写っていない。

最初はちょっとした冗談で、昔のようなボクシングサイボーグキャラからの脱皮か?イメチェンか?と思ったのですが、これには深い意味がありました。つまりは「ロッキー、お前の栄光の中に俺(敗者という弱いもの)はいないんだな」という事です。敗者は物語から消されてしまうんだなということが言いたかったんだと思うのです。
ロッキーは勝負に勝ち、栄光を手にし、伝説になった男です。そして父ドラゴは負けて全てを失い、負け犬として生きた男です。そんな二人の男の運命がまた交錯したのです、今度は己が全てを賭けた弟子と息子を通して、つまりはアドニスとヴィクターを通し、二人は再びリングに上がることになったのです。
ドラゴ親子からの挑戦を引き受けるアドニスでしたが、ロッキーはこれに反対します。 なんといっても相手はアポロをリング上で殺したドラゴの息子。
ロッキーはアポロと父ドラゴの試合でアポロのセコンドをつとめていました(ロッキー4にて) そして彼が死んでしまうとわかっていながら、タオルを投げることができなかった。
なぜならロッキーもいくつもの死闘を重ねてきましたがタオルを投げることは、自らのファイターである事の否定、自らの存在の否定だと思っていたからです。
しかしその行為が正しかったのか、33年経った今でも答えは分からず、残ったのはアポロが死んだという事実だけでした。
ロッキーに反対されたドラゴはブチ切れます。
ならいい、あんたには頼らないと強情になり自分で組んだチームでヴィクター戦に挑みます。
そして因縁の対決、アドニス対ヴィクター戦へ。

試合開始はアポロ顔負けのフットワークでアウトボクシングに徹するアドニスでしたが次第にヴィクターがペースを握り始め、1ラウンド終わりには既にアドニスは大きな力の差を感じていました。
こいつは格が違う、バケモノみたいに強ぇ 体格もリーチも数段上のヴィクターは、パワーに加えスピードも持っています。
試合が進むにつれてサンドバッグ状態にされるアドニス、そしてダウン。
ダウンしたアドニスにヴィクターは追撃の一発を喰らわせます、ボクシングにおいてダウンした相手に追撃するのは反則です。 ヴィクターの強烈な一撃を喰らったアドニスはその場で意識を失います、試合はヴィクターの反則負け。
しかしそのまま普通に闘っていればヴィクターの勝利は誰の目にも明らかでした。
実力の違いを見せつけられたアドニスは病室で沈みまくります。
自分の弱さ、力の差の大きさ、人間として、ファイターとしてこの先どう生きていけば良いのか分からなくなり自暴自棄になります。
アドニスがここまでなるのには試合に負けたことのほかにもう一つ理由があります。
それは今作で妻となったビアンカが自分の子供を身ごもっているからでした。
父親として、こんな自分で妻と子供を守れるのだろうかと不安になり、その不安を周りに怒りをぶつけることで和らげようとします。
お見舞いに来てくれたロッキーにも怒りをぶつけ、退院して家に帰ると身の回りの事をサポートしようとするビアンカにも
自分でできる!わざわざ世話を焼くな!
と、常にピリピリしています。
自分が惨めに思える時、自分への優しささえも素直に受け取れず同情されているように思えてしまう、個人的にもすごく共感できる部分でした。
敗北のショック、そしてこれから先の不安に苛まれ、アドニスは少しの間ボクシングから離れていました。

ドラゴ親子から再挑戦の挑発を受け、世間でも再戦が望まれたり、逃げ腰のチャンピオンだと揶揄されるなかアドニスとビアンカの間に待望の第一子、娘のアマーラが生まれます。
アドニスははじめ子供との接し方が分かりませんでした。
なぜなら彼は自分が父親と接した事が無かったからです、自分が父親として何をしたら良いのか、何ができるのかが全くわからなかったのです。
ある日娘と二人きりになってしまい、アマーラは一向に泣きやみませんでした。
困ったアドニスは自分の一番落ち着ける場所であるボクシングジムに向かい、ボクシングを通じて初めて娘と向き合います。そしてアドニスは気づきます。
ボクシングしかしていなかった自分にはボクシングしかないんだ、自分にできることはその姿を娘に見せてあげることだ、ボコボコにされたって、コケにされたって構わない。自分ができる事を、自分にしかできない事をやり通す。それを伝える事しか自分にはできない。
ちなみにかの有名なロッキーのテーマ曲は「Going distance」というタイトルです。これは「徹底する、やり抜く」という意味です。

ROCKY II Training "Going the Distance"

この場面では流れませんが、ロッキーシリーズに脈々と受け継がれる魂がこの作品にもしっかりと現れている本当に感動的なシーンです。正直ベタベタでもいいからここでこの曲を流して欲しかった!
かくしてアドニスはヴィクターとの再戦を受け入れ、再びロッキーとタッグを組むことになります。

ロッキーシリーズといえばトレーニングシーンがめちゃくちゃ有名です。個人的にも前作トレーニングシーンを今か今かと待ちわびています。
ちなみに自分が一番好きなトレーニングシーンは「ロッキー2」です。
特にロッキーのランニングに子供たちが付いて来てしまい、最後には異常な数の子供たちがロッキーと共にフィラデルフィア美術館の石段を登り、てっぺんの広場で皆でロッキーコールをするシーンが大好きです。このシーンで白飯六杯くらいは容易いかなと思います。

ROCKY II TRAINING

あと、「ロッキー・ザ・ファイナル」のエンドロールも最高です。これは是非見てもらいたいのでどんなシーンかは伏せておきます。

話が逸れましたがアドニスとロッキーはとある場所で秘密の特訓を行います。
ロッキー曰く「ボクサー達の虎の穴」。なんかよくわかんないけどめちゃくちゃかっこいい響きです、ナイス翻訳です。
ここの熱気はとても文章では伝えきれないので是非映画館で見てください。最悪ここだけ見て(できたら入場シーンもかっこいいので見て欲しい。)帰ってもいいかもしれません。
ロッキーシリーズはいつも前述の「ロッキー2」のようにこのシーンだけいつも映画のリアリティラインを軽くぶっちぎるところがあります。
しかしここが最高なのです。映画においてリアリティラインというのはとてもシビアな問題で、だいたいのよくない映画はここをなんの気もなくぶっちぎるものが多いのですが、ロッキーシリーズはここをぶっちぎってくれることに快感すら覚えます。ある種ドラッグのような中毒性を帯びています。なんで急に?どゆこと?は禁句です。
全ては、よくわかんないけど最高!!それで良いと思います。
そんな「ボクサー達の虎の穴」での修行を終えたアドニスは前回よりも何倍も強さと自信を手にしてヴィクターとの再戦に挑みます。

冒頭と同じように、もはやクリードシリーズのシグネチャームーブになりつつある二人の試合前の頭振りの儀式。ここで観客もアドニスとロッキー同様集中力と闘志を高めます。アドニスと、そしてロッキーと共に自分もリングに上がるような高揚感を覚えます。そして入場シーン、前作では敵の入場シーンが死ぬほどかっこよかったのですが

映画「クリード」 かっこいいシーン

今回はアドニスの入場シーンもなかなか見ものです。(この火吹き職人みたいなやつ雇いてー!)
今回のアドニスの入場シーンは最初は、えっ?と思うのですがだんだんとテンションをあげてくれます。
正直自分の奥さんをあんな感じで使うボクサーはちょっと、と思う部分もありますがここも自分は中毒者だと思って細かいことには目をつむるのが正解です。
ここからは最強であり最恐、そして最凶の挑戦者ドラゴ親子との死闘が始まります。
前作にも増してボクシングシーンはとてもリアルでロッキーシリーズからかなり改善されており、見応えは抜群です。
そして特筆すべきはファイトシーンのラスト、これまでのシリーズは闘いの中にあまり人間ドラマを入れるのは忘れがちで、盛り上がりどころではあったのですが、ある意味これまでのストーリーからすこし離れたところにあるなと、個人的には感じていました。
しかし今作ではむしろファイトシーンよりも重要なあるシーンが、本当に絶妙に、非常にドライなタッチではありながら抜群の存在感を放っています。
ここは本当に泣けるシーンです。これまでのシリーズを見て来た人間にとっては涙なしでは見られません。
負けて全てを失った男が、勝つことが正義だと教え続けた男が、愛の表現の仕方を知らなかった男がとったその行動は、ロッキーシリーズの誰もができなかった事なのです、復讐の連鎖を止めるその行為は、ある意味で本当の勝利とも言えるかもしれません。
これは是非自らの目で見て確かめて欲しい。こんな愛の形があったなんて、思っても見なかったです。
結末を言ってしまうと、言ってしまっても全然面白いので言ってしまいますが、最後にロッキーは勝利したアドニスと拳を突き合わせこう言います

「It’s your time -お前の時代だ-」

素手の拳とグローブをつけた拳。
つまりは舞台から去った男からチャンプになった男へのチャンプの継承です、伝説の継承です。「クリード チャンプを継ぐ男」は前作のタイトルですが、ここではまさにそのタイトルを体現するが如く非常にわかりやすく最高のカタストロフを与えてくれます。
本当に痺れるラストです。
ありがとう、良い映画です。太田胃散ばりにそう言いたくなります。

そんなこんなで長くなってしまいましたが個人的には本当に最高の映画でした。少なくとも今年観た映画の中では間違いなくベストです。そこまで話題になっていない今作ですが是非とも観て欲しい。
このブログをみてもらえれば別段過去シリーズを観なくても楽しめるかなと思います。
最初のシーンとラストのシーンのドラゴ親子のトレーニング風景の些細な違いなんかもほんともう涙が出てしまいます。

個人的にはロッキーシリーズとの劇中の音楽の違いで見えてくるアメリカの音楽シーンの移り変わりとかもすごくグッとくるところであり、他にも語りたいことはたくさんあるんですが、自分の体力がもう持たないので最初の記事としてはとりあえずここまでにしようかなと思います。

とんでもなく長くなってしまいここまで読んでくれた方は本当にありがとうございます。もし楽しんでいただけたなら今後もこんな調子で細々と書いていこうと思っていますので是非とものぞいてやってください。

クリードシリーズ一作目の「クリード チャンプを継ぐ男」は下記から観れます。(¥199)


ではまた!




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