“自明”からこぼれ落ちる本当に大切なものとは?「万引き家族」(映画レビュー、ネタバレ、考察)

映画

どうも、連休も今日含めてあと2日
ということでどんどこ書いていこうと思います。

先日このGWという大型連休で鑑賞した映画は2本ということでしたが、この作品で3作目!!
と見せかけ、実は鑑賞自体は4作目でございます。
実は前回の「ニューヨーク・ニューヨーク」と今回書かせてもらう「万引き家族」の間に
今回と同じく邦画の「愛しアイリーン」も挟んでいます。プチ方が祭りですね。
こちらも面白かったので後日、書かせてもらおうと思います。

はい、ということで今回書かせてもらうのは

「万引き家族」

でございます。
カンヌ映画祭で21年ぶりに日本映画が作品部門の最優秀賞に当たるパルムドールを獲得した作品として記憶に新しいですよね。

では本日は寄り道せずささっと本題に行かせてもらいます
まずはざっと映画の概要から

◾️「万引き家族」
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
原案:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ、
池松壮亮、高良健吾、池脇千鶴
音楽:細野晴臣

◾️あらすじ
東京の下町の今にも崩れてしまいそうな小さな平屋建ての一軒家で、
祖母(樹木希林)の年金を頼りに生きる柴田家。
父である治(リリーフランキー)は日雇い労働者、
母である信代(安藤サクラ)はクリーニング店で働き、
息子である祥太(城桧吏)を養いながらも、
足りない生活費を万引きによって生計を立てる。
ある日近所で育児放棄を受けていた幼い女の子(佐々木みゆ)を拾い、
誘拐かどうかとも迷いながらもその少女に凛と名付け一緒に暮らし始める。

しかし、映画が進むと共にこの家族のいびつな関係性が次第に明かされていく。

現代の日本が抱える年金不正受給、貧富の差、育児放棄などの社会問題に掛け合わせながら、家族の絆や愛の本当の形を、是枝裕和監督の独特のタッチで、
緩やかに且つ、ヒリヒリと、
観ている者に問いかける。

万引き家族一家
松岡茉優演じる亜紀がなぜこの家にいるのかは明らかにされていない。

といった話になっております。
いやー、原案から脚本、そして監督まで全て1人でやってしまうあたり、是枝監督の手腕のすごさを感じさせますね。
ちなみにこれまで私が鑑賞済みの是枝作品は同じくカンヌ映画祭で主演俳優の柳楽優弥が最優秀主演男優賞を獲った「誰も知らない」。それと「海街diary」のみなんですが、この2作に関しても後ほどちょっと触れてみようと思います。

本当の家族の姿とは

この作品のテーマみたいなもをあくまでも個人的に紐解いてみるとそれは

「家族」という自明の観念に対する疑問、
ひいてはこの社会に存在する多くの自明な観念に対するアンチテーゼ

ではないかと思いました。

「家族」という言葉はもちろん、血で繋がった人々の事をさします。
そしてその繋がりはとても強固で、愛に満ちていて、決して断ち切られることはないと、それが自明の事なのだと思われています。

しかし現代の家族の姿を見回してみるとどうでしょう?
貧困や育児ストレスから、育児を放棄する親や、子供を殺す親さえいます。
親の介護に苦しみ精神を病む人や、介護を放棄し年金だけを受け取り続ける人さえもいます。
さらには老人は家族という核から見放された瞬間から孤独に生き、孤独に死に、時にはその死にすら気づかれずに何日も放置されてしまうという報道も時折耳にします。

家族は“血縁”で強く結びついていて、どんな時にも助け合い、どんな時にも寄り添い合う。
そんなあまりにも自明な観念の中からこぼれ落ちた、上記のような事件や現実を、人々はただの例外として捉えることしかできません。

そんな自明の「家族」という観念とは対照的に、この映画で描かれている家族は、
実際はそれぞれに血縁関係は全くありません

それでもこの家族は寄り添いあいながら、異常にボロい家の中で、見るからに貧しく、そして犯罪と共にある生活の中でも、楽しそうにイキイキと生きてます。

特に治(リリーフランキー)と信代(安藤サクラ)は真夏のパチンコ屋の駐車場で置き去りにされていた祥太(城桧吏)を助け、親から虐待を受けていた凛(佐々木みゆ)を助け、さらには本当の家族のように愛を持って育て続けます。
樹木希林演じる祖母も、血の繋がった本当の家族ではないこの家族の仲で幸せに生きながら最期を迎えます。
彼らはお互いが助け合うことで喜びを感じ、血の繋がりがないなかでも家族の愛が生まれるのではないかという可能性を見せてくれます。

この幸せな姿を観ていると、本当の家族とはなんなのか、血が繋がっている事だけが家族の条件なのか、そんな事を考えずにはいられなくなってしまいます。

時にはとても強固に、時には呆れるほどゆるい
それが彼らなりの、家族の絆

血が繋がった家族でなくても、とて固い絆で結ばれていると思っていたこの家族でしたが、クライマックスでは警察に追われ入院した祥太を置き去りに、家族はいとも簡単に夜逃げしようとします。
ここでこの家族の絆は強固ななものではなかった事があっさりと露呈してしまいます。

しかし、この部分は家族という、ある種のやっかいなしがらみを、簡単に取り払っているようにも感じられます。
劇中ではいくつか是枝作品には珍しいくらいにセリフめいた口調で

「血が繋がっていないからこそ、案外上手くいくのかも」

と、語るシーンがあります。
彼らは血縁というしがらみが無いからこそ固く結びついていて、
ある時はその固さを簡単に緩める事もできる、そんな事がこの言葉に凝縮されているように感じます。

時に激しくお互いを愛し、必要とし、時には呆れるほどあっさりとそれを振り切る。
そんな関係が彼らにとっての家族の絆だったんじゃないかと思うのです。

いつだってあなたを見放す、だからいつだって私のことも見放してくれ
こんな形の絆だって、決して間違ってはいないと思います。
血の繋がった家族の面倒なしがらみよりは、もしかしたら心地よい関係かもしれません。

本当の親子じゃないけど、本当に愛している。

この家族は万引きを一種の生業のようにして生きてきました。彼らが万引きに感じていたのは罪悪感ではなく必要悪でした。
おそらく前科からか普通の仕事がしたくても働けない社会、普通に育ちたかったけれど育てなかった自分の人生が、まとめて言ってしまえばそのような「現実」が、常に彼らの後をついて回りました。
自分だけではどうにもできないんだから、万引きでもしないと暮らしていけない。
ある種の社会への、生まれた境遇へのできる限りの反抗が彼らにとっては万引きでした

しかし、いつしか幼い祥太には罪悪感が芽生え始め、親代わりである治にも少しづつ不信感をおぼえ始めます。特に治が車上荒らしをした時は、その気持ちがセリフにも表情が色濃く出ています。
それでも彼が修を慕い、愛する気持ちは本物です。
好きだからこそ、悪いことはしないでほしい。自分が好きなあなたのままで居てくれないんだったら、自分の身を不意にしてでも自分が好きなあなたのままでいてほしい。
翔太のそんな気持ちが、彼に無謀にも見える万引きをさせます。
もはやこれこそ親子の愛を超えた本当の愛だと思います。

このシーンは、本当の家族でない治に対しての、彼の愛の強さが、とても強く、痛いほど分かるシーンになっていてとても切ないです。
またこう思わせるリリー・フランキーのある行動がまためちゃくちゃ惨めで、切ないことこの上ない!!、本当に痛々しい、悲しくなるシーンでした。
ここらへんは是非映画を見て確かめてもらいたい点です。

最後の最後でリリー・フランキーが

「おじさん、お父さん辞めて、またおじさんに戻るわ」


なんてこと言います。
これって彼が、まがいなりにも父になろうとしていたって事だと思います。
子供ができたから父になるんじゃなくて、彼が父になろうとしてたから親子としての愛が生まれていた、きっとそういう事だと思います。それに対して祥太も

「うん」

と返すだけというのが、非常に是枝監督らしい、いじわるなんだか解釈を広げてくれるんだか分からないとこですよね。
個人的には先にも書いたように、こうして時にびっくりするくらい緩くなるのが彼らの絆なので、きっと彼らはこの先もずっとつながって生きていくし、いつかはまた助け合う日が来るんだと思います。
お父さんじゃなくてもいい。それでも、あなたを愛し続ける。
きっと祥太はそう思っているのではないかと思います。

最も強い愛を感じさせてくれる治と祥太

限りなくグレーに
それこそが是枝監督のスタイル

今作の発想の原点を「怒り」だと語る是枝裕和監督

今作を作る際、是枝監督は自らの「怒り」を発想の原点にしたとインタビューで語っていました。
それは年金不正受給詐欺の事件や日本の福祉の体制に対する怒りです。

2010年頃からニュースで度々耳にした年金不正受給の事件は世間から大きなバッシングを受けけましたが、そこにはその人たちなりのやむを得ない状況からの選択や、報道からはこぼれ落ちてしまった現実がありました。
しかしそれに対して白か黒か、正しいか間違っているか、二分にジャッジを下す事で、こぼれ落ちた現実には触れられなくなってしまいます。

この映画でも祖母の死でかかる費用や、生活費の不足などの末のやむを得ない選択は死体遺棄としてジャッジされ、
祥太や凛を助け、犯罪に手を染めながらも育て続けた現実は、誘拐と子供に万引きをさせたというジャッジを受けてしまいます。

そしてそれらを池脇千鶴と高良健吾演じる役所の人間は、誘拐、死体遺棄という犯罪のフィルターを通して観てしまう事で、そして彼らが血縁関係がないというフィルターを通して観てしまう事で、そこにある現実をすくいとれずこぼしてしまいます。
もちろんそのどちらも犯罪です。しかしこの映画を見れば、犯罪であるとジャッジすることでこぼれ落ちてしまう現実や、消えてしまう可能性がいくつもあることに気づきます。

是枝監督はこのように白か黒か、正しいか間違っているか、で答えを完全に提示するのではなく、その間にあるグレーの部分をすくいとり、グレーをグレーのまま撮りきりました。

もっと考えてみようよ、何かこぼれ落ちているものがないか確かめてみようよ。
この映画の人々みたいに、いろんな事情がそこにはあるかもしれないよ?

この作品は、そんな問いかけを見る人に投げかけている作品だと思います。

ちなみにこの役所の二人の配役に池脇千鶴高良健吾というA級役者を持ってきて、ここまでのリアルで自然な演技とは違う、いかにも芝居然としているところなんかは、この映画における2人の異物感が抜群に出ていて、作品のアティチュードを静かに示していたように感じました。
是枝監督、流石すぎる!!と唸らされる部分でした。

どの作品にも悪者を登場させない、というのが是枝監督の映画ポリシーだそうです。
この作品では、様々な事を二分するように撮りきらずに、グレーのままにして解釈を広げ、そこにある現実をこぼさずに、すくい取らせるよう促してくれた気がします。

思えば、「誰も知らない」でも子供を捨てたYOU演じる母親を悪として描ききらず
彼女なりの事情があるように描くことで、いったい悪いのは誰なんだ、どうすれば兄弟たちは助かったんだと考えさせられました。
ただ見るだけでは終わらせない、是枝監督にはそんな作風があるなと今作を見て感じました。

とびきりエンターテインメントな話運び

ここまで読んでいくと、なんだかたいそうな事を感じ取った、と思われるかもしれません。
でも見た後にまず感じたのは、一級品のエンターテインメントのような話運びの心地よさでした。
なんというかいつのまにか映画に入り込み、ただただ話の、映画の面白さに魅せられていました。
是枝監督といえばアート映画な向きが強いと思いがちでしたが、この作品ではしっかり娯楽的な部分も追求されているなと感じました。

この作品では登場人物とそれら同士の関係性が徐々に明かされていく作りとなっていて
あれ、こいつら本当の家族じゃないっぽいな
え、じゃあ何で一緒に住んでるの?
え、過去にそんなことしてたの?え、えええ!!
という具合で、徐々に話の輪郭をつかませるこの作りが話運びの大きな推進力となってます。

そして常に先行きがわからないながらも、「絶対にハッピーな展開は無い」「みんなめっちゃ幸せそうだからこそ、絶対によくないこと起こる!!」と感じさせる役者の細やかな表情や演技によって、緩い雰囲気の中にも常に緊張感が同居していて、ヒリヒリしながらも画面に釘付けにさせられてしまうのです。

まぁ考えてみればこの家族ね、本当にダメすぎますからね、ラストの結末なんかも本当の愛とか色々とここまで書いてきてはいますが、当たり前すぎるラストの着地点も現実感があって良いですよね。

そして細野晴臣の音楽やそれを挿れるタイミング、家のセットの壮絶なボロさ、汚さなどの環境設計も、この家族が貧乏で最悪な生活を送っているのになんだかハッピー!!
という雰囲気をすごくうまく表していて、映画全体のトーンを明るく、温かいものにしてくれています。

社会派映画監督の姿に見え隠れする
人情映画監督としての側面

「だれも知らない」を見た時からシリアスな題材でシリアスな雰囲気で撮る、アートフィルムの要素が強いと思っていた監督だったのですが、今回「万引き家族」を見てから思ったのは

めちゃくちゃ人情味のある映画だな

という事でした。
思い返すと「海街ダイアリー」も三姉妹という完全に出来上がった世界に入り込んだ広瀬すずという、ある種の異物を優しく愛し始める人情物語だったなと思い返しました。
なので「万引き家族」は

「家族を描き続けてきたその先に、赤の他人同士のもつ人情味の強さ」を垣間見た作品

と勝手に位置づける事にしました。

今回この話題作を見て、改めて是枝監督の凄さや、作品の背景に関しても考えさせらる事が多かったので今後は是枝監督作品を遡って見てみたいなと思いました。

という感じで「万引き家族」に関しては以上であります。
長々と読んでいただいた方、ありがとうございます!!

個人的には「万引き家族」、ずばり

85点!!!

でございます。素晴らしい作品でした!!
ただですね、かなり個人的な話なんですが、私安藤サクラさんのナチュラルと言われているような演技がとても苦手でして、そこの部分だけこの映画で嫌な部分でした。

そんなことはまぁ置いといて、非常におすすめですので是非いろんな人に見てもらいたいなと思います。

おわりに

最後に個人的に関連すると思う作品をあげさせてもらいます。

「誰も知らない」

まずは同じく是枝監督の代表作の「誰も知らない」ですね。
「万引き家族」で祥太がそうであったように、この作品にも車の中で置き去りにされた子供の話が少しだけでてきます。昔から一貫したテーマを持っているんですね。

誰も知らない(プレビュー)

この「誰も知らない」でも実際に起きた巣鴨子供置き去り事件をベースにしています。
現代の隣に誰が住んでいて、どんな生活が営まれているか全く分からない。という社会の中で
この子供達の間に一体何が起きたのか「だれもしらない」。
そんな状況に疑問を投げかけた作品です。

「海街diary」

三人の姉妹の住む一軒家に突如住むことになった少女と、三姉妹の、血はつながらずとも芽生える本当の愛、みたいなテーマかと思います。
映画全体がゆっくりしていて和みます

海街diary予告篇

綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、というもう美女だらけで、それだけでお腹いっぱいぬなれる映画です。

ヘレディタリー/継承

【超恐怖】これが現代ホラーの頂点 11.30公開『ヘレディタリー/継承』90秒本予告

めちゃくちゃホラーなので予告見る方は注意です。
なぜこの映画かと言われると、昨今の若手の映画監督には家族という概念に関してとてもオルタナティブな考え方を持っている人が多いなと思います。
ホラーと同時に家族の崩壊が描かれるこの作品で、主人公は母親に「産まれて欲しくなかった」といわれます。
監督アリ・アスターは自分自身家族にまつわる強烈なトラウマがあり、そのセラピーとしてこの映画を撮ったそうです。
「万引き家族」はもっと陽な方向で新しい家族のあり方を見せてくれましたが、この映画のように新しい家族感を表現する作品は、昨今の人種問題やLGBTをテーマに扱う作品が多くなっていることからも感じるように、価値観が多様になる今後の時代で増えてくるかもしれません。

万引き家族(小説)

是枝監督の書き下ろしの小説版「万引き家族」
監督は映画を作り、最終的に文章にしないと、その映画を本当に終わらせる事ができないそうです。なんとも丁寧な人な感じがしますね。
せっかく映画も見たので、こちらの小説も読んでレビューしてみたいなと思っています。

あとはいつも参考にしているお二方のこの作品の評論も貼っておきます

【町山智浩映画時評】『万引き家族』完全版~是枝映画落語説~
【宇多丸】ムービーウォッチメン『万引き家族』2018年6月15日 編集:君島広樹

町山智浩さんと宇多丸さんの解説です。
聞いてみると、お前ほとんどぱくってんじゃねぇかと言われるかもですが、それだけ2人の評論は素晴らしいです。もう正直ね、ほとんど同じようなこと書いちゃってますね、、、
見ていなくても楽しめると思うので是非聞いてみてください!

はい、そんなこんなで個人的な関連作も是非とも興味を持っていただけたら幸いです。
本日はこの辺で!

では!!

コメント