「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」映画レビュー(ネタバレ)。スクリーンいっぱいに広がる幸せを観る

映画

幸せはきっと日常のどこかに常に漂っているのだと思う。

「幸せになりたい」「幸せを目指す」幸せっていつも目的として考えられがちだけど、それはきっと違うのだと思う。
お金がいくら貯まったら幸せ、家を買ったら幸せ、子供が生まれたら幸せ、幸せはそんな風に何かを達成した時に授与されるトロフィーみたいなものではない。

例えば会社に行って、ちょっと気になるあの子に話しかけられたり、逆に自分から話しかけたり、その日着てる服を褒められたり、自分が仕事の良い潤滑油になっていると感じた時に、フワッと幸せが訪れる。きっと幸せってそんなものだろう。

じゃあ、自分が介在していないところには幸せはないんだろうか?
いや、決してそんなことはない。

あくまで個人的な感情だけど、「誰かのかっこいい瞬間」を観る時に、自分は幸せを感じる。
それは例えば情熱的にプレゼンをする姿だったり、誰も思いつかないような突飛なアイデアを提案する時だったり、はたまためずらしくビシッとスーツを決めている時だったり、愚痴なんか吐かないようなやつが急に弱気になった時だったり。
そんな時、そんな姿をかっこいいと思うし、憧れる。そしてその姿を見た瞬間を
「あ、これは小さいけれど、幸せだ」
と思うのである。
いや、正確に言うと「誰かのかっこいい瞬間」を観る時が幸せだと、ある映画を見て気づかされた。

そう、その映画こそまさに「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」なのである。

まず最初に言っておきたい、自分はこの映画が大好きである。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドは生粋の映画オタクであり、映画監督である
クエンティン・タランティーノの第九回監督作品である。
タランティーノは「10本映画を撮ったら、監督引退だ!」とかねてから宣言している。
んで、これがもう9作目なので彼が作る映画はもうあと一本しか見れない(ということになっているけれど、大方の予想としてはまぁなんだかんだ撮るでしょ、という雰囲気)
しかも今作はかなり満足の出来らしく「もうこれで引退しちゃってもいいかなぁん」なんて事も言っている。世界中の映画ファンはがおろおろしていることだろう。

しかし、この日本という国において映画好きはまだしも、そこまで映画を見ない人にとってはクエンティン・タランティーノという映画監督の作品はあまり知られていないかもしれない。
そして何よりも思うのは「タランティーノの映画は、あんまり楽しく見られていない」のではないだろうか?ということだ。

タランティーノの映画って、何が面白いの?
そう聞かれると、たしかに答えにたじろいでしまう自分がいる。
一応の世間的な彼の評価としては「映画で歴史を塗り替える」なんて言われ方をしている。
たしかに3作前の「イングロリアス・バスターズ」は誰もが知るナチスの最悪の歴史を爽快に塗り替えたし、2作前の「ジャンゴ」では散々ひどい目にあっていた黒人奴隷が雇い主の白人に反旗を翻し、僕らの世界に存在しなかった未来、存在しなければいけない未来、を鮮やかに見せてくれた。
はたまた「デスプルーフ」では女性という、歴史的には弱者として扱われてきた人々の視点に立って、猿でも分かるくらい分かりやすく、彼女たちの強さを見せつけてくれた。そりゃもう過剰すぎて笑えるくらいに見せつけてくれた。
そこには映画だからこそできる、フィクションだからこそ表現できるメッセージがたくさん詰まっているし、こんなフィクションみたいな世界って最高に気持ちいじゃん!!と思わせてくれる魔法みたいなものが、タランティーノの映画にはある。

そんな話をすると
「じゃあさ♪タランティーノの映画ってメッセージ性が結構あるんだね♬メッセージを読み取ることがタランティーノ映画の楽しみ方なんだね♫」

という話になるかもしれない。可愛い女の子がバカなふりをしてそんなことを聞いてくるかもしれない。そんな時自分はこう答えるだろう

「違うよ」

そう、違うのですよお嬢さん。
いや、正確には違くはない。
なんなら全然間違っていない。そういう見方を是非ともしてもらいたい。
仮にも先に挙げた3作なんかはそんな楽しみ方ができる映画だと思う。(というより読み取ろうとしなくても読み取れてしまうくらい分かりやすいけれど。)

それでも声を大にして言いたいのは、特にこの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に関して本当に言いたいのはやっぱり

「誰かのかっこいい瞬間、あるいは可愛い瞬間を観るって、めちゃくちゃ幸せなことじゃない?」

ってことなんです。
もうこれに尽きると思うんです。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は1960年代末のハリウッドが舞台になっている。
1960年代末のハリウッドは激動の時代だった。
権力の下敷きにされていた若者たちが一気に立ち上がり、カウンターカルチャーがエリートや慣習を飲み込んだ。
ヒッピーが自由を叫び、警官は権力の犬だと急でこしらえた正義感で噛み付いた。
ハリウッド映画の描くハッピーエンドなんて存在しないと気づいてしまった若者は、弱者である自分達を描くような暗く、絶望的な映画に傾倒していった。
その流れにいち早くのれたやつらはそのまま勝ち組で、のれなかったやつらにはクソみたいな仕事しか回ってこなかった。
(※ここら辺の時代感に関しては過去に書いた「明日に向かって撃て!」「明日に処刑を」を読んでもらえると嬉しいです。

そんな激動の1960年末のハリウッドで、まさしく時代の波に乗り遅れ、クソみたいな仕事しか回ってこなくなったのがディカプリオ演じるリック・ダルトン、そしてもはや仕事すらあんまり回ってこなくなったリックのスタントマン、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブース。
そしてリックの隣に引っ越して来たのは女優であり若手の注目映画監督であるロマン・ポランスキー(実在の人物)の妻であるシャロン・テート(これも実在の人物)だった。演じるのはハーレイクインが記憶に新しいマーゴット・ロビー。

先が見えない二人の男と対照的に、代表作こそまだないもののシャロンの未来は前途洋々だった。
そんな3人の姿が、1960年代末という時代感、ハリウッドというシステム、ハリウッドという特殊な街を背景に、そして1969年の8月9日というアメリカ人なら誰もが知る悲劇の1日に向かって描かれている。
(1969年の8月9日の事件に関してはこちらを。この悲劇をあらかじめ知っていた方がきっとこの映画が楽しめます。)
言ってしまえばこの映画それ以上でもそれ以下でもない、そんな映画である。

「そんな映画である」なんて吐き捨ててしまうのはなぜかというと、この映画はほとんどドラマ性がないからである。極端と言ってもいいくらいにストーリーには起伏がない。

それでもやっぱり、自分はこの映画が大好きだ。
心の底から好きだって言えるし、死ぬまでに何回も観るだろう。(事実、公開二週間目で二週続けて見にいっている。)
そりゃなんでかって?だって、だってですよ、何回もいうけれど

「誰かのかっこいい瞬間、あるいは可愛い瞬間をずっと観ていられるから!!」

ってわけですよ。
もう何度も言って申し訳ないし、こんな長々と書いていてそんな下らない事かよって思うかもしれないけれど。自分がこの映画が好きなのって、ほんともうここの部分だなって思う。
そして自分が年間に何本も映画を観るのって根源的にはそこにあるんだとも思う。
いつだって映画に求めているものは、かっこいい誰かに憧れたり、可愛いヒロインに恋する事なんだと思う。

例えばディカプリオの演じるリック。
リックははたから見たら成功者にも見えるし、決してまだまだキャリアが終わった俳優ではない。けれども先の見えない不安は自分みたいな普通の人間と同じなんだと気付される。そこで感情が一気にリックに近づいていく。
酒に溺れてセリフを忘れ、控えのトレーラーの中で自分を罵る姿は笑えるし泣ける。
正統派のヒーロー役で人気だったのは昔の話、今では悪役しかまわってこない。それでもリックは必死に常にベストアクトを目指す。
その甲斐あって彼はこれまでに自分の中には無かったダーティーな演技を完遂する。
その時彼は小さく微笑みながら
「俺は、リック・ダルトン様だ(!!)」
と小さくも誇らしげにつぶやく。その表情がほんとに、本当に味わい深い。
哀しさとか怒りを強く孕んでいるからこそ、感情がぽろっとこぼれたときに不思議な色気が滲み出る。
傷だらけになってもいいから、こんな人間になりたいと思える。リックにはそんな魅力がある。

そしてブラピのクリフは、こりゃもう男は誰でも憧れる渋みのあるかっこよさだ。
色気が溢れんばかりだ。もうなんていうかスクリーンにいるだけでかっこいいのだ。
いつも微かな微笑みを浮かべ、多くは語らないけれど、実はめちゃくちゃ強くて、めちゃくちゃ優しい。
全然貧乏なトレーラーハウスとか大型犬飼ってる感じは、なぜか頭の片隅にずっとあるテンプレートな憧れアメリカンライフを思い出す。それでもそれをブラピがやっちゃうともう男でも(男だからか)惚れてしまう。タバコの広告看板がそのまんま動き出した!!みたいなワイルドさだ。
車のハンドルを軽く握ってハイウェイを走ってるだけでもかっこいい。軽く握るんですね〜、ほ〜なるほど〜とわけのわからない部分まで真似したくなる。
真似したい、黄色いアロハが欲しい、大型犬飼いたい、こんな男になりたい!!
30にもなる男がそんなバカな妄想で頭がいっぱいになってしまうくらい、クリフという男、ブラピという男はかっこいい。

そしてマーゴット・ロビー演じるシャロン・テートのキュートさも抜群だ。
脇の役だけど自分の出演した映画を劇場に見に行く彼女の微笑み、体の芯から微笑みが溢れて止まらないあの表情がたまらない。
多幸感溢れる彼女を追う視線の優しさはシャロン・テートへのリスペクトを強く感じる。
もちろんマーゴット・ロビーそのものが可愛いというのもある。けれども彼女の将来が開けている感じや、選択肢が無限に広がる、まだ何も始まっていない感というのがとてもまぶしい。
若いってやっぱいいよなぁ、とかちょっと卑屈になりながらも、あ…でも俺だって若かったし、今の俺だってあの若かった俺の続きじゃん、なら俺もまだ行けんじゃん!まだ諦めない方が良いじゃん!と一周回ってやっぱり希望をくれるくらいキラキラしていて希望を与えてくれる。
もちろん彼女の身に起こるであろう運命が前提にあるのかもしれないけれど、それでもこの映画のマーゴット・ロビーは可愛さと幸せで輝いている。

リックの哀愁と傷だらけのカッコよさ
クリフの何をしてもカッコいい振る舞い
そしてマーゴット・ロビーの輝くような愛おしさ、可愛らしさ
この映画の9割くらいはこのこれらの成分でできている。

そして、そんな3人の姿が、めちゃくちゃでかいスクリーンに広がるのだ。

彼らが動き、話し、酒を飲み、タバコをふかし、愛らしく踊り、喜んだり、悲しんだり、誰かを殴ったり、誰かに殴られたりする。
その瞬間の一つ一つがかっこよくて、可愛くて、セクシーだ。
その瞬間一つ一つに愛しさをおぼえ、幸せを感じる。
スクリーンいっぱいに幸せが広がっている。キラキラと輝く幸せが、客席を埋め尽くす。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」はそんな映画だ。

とまぁ、要約すると出演陣がめっちゃカッコいい!!めっちゃ可愛い!!
みたいなことしか言ってないわけだけれど、結局のところ映画の楽しみ方ってきっとそんな側面もあると思うのだ。別に無理にそこに込められたメッセージとか、テーマを探らなくても良い。
いくらストーリーが面白くたって、そこにカッコ良さとか色気を感じないのは良い映画ではない。
脈絡のない話をすればそんな映画には「ラブ」を抱けない。
映画を観た後に登場人物の仕草や格好を真似したくなる、自分の頭の中で漠然と抱いていた理想の男像とか、人間像が、急にビジュアライズされるからだろうか。
そんな映画に自分は初めて「ラブ」を感じる。愛してる映画だと心から言える。
「好きな映画」を誰かに語るとき、いつも理由が出てこないのはきっと、生物的な、根源的な部分で好きだからなのかもしれない。
そこに理由をつけるのは野暮ってもんじゃないですかい。

そしてここまで観る者に愛とか幸せを感じさせるのは、これはもうタランティーノが映画をとことん愛しているからだろう。
彼の溢れんばかりの愛がこの映画に滲み出て、最終的には映画全体がぼわぁっと幸せで包まれている。ぼわぁってのはぼんやりってことではない、なんというかこう、やさしい感じのぼわぁっ、である。
まるでタランティーノが映画を愛する視点を、観ているこちらに与えてくれた感覚になる。
「ああ、タランティーノってきっとどんな映画にも、こうやって愛を持って観てるんだなぁ。」
と、映画の愛し方を教えてくれる。

きっとスキル的な面でもギミックもたくさん散りばめられているはずだ。
特にブラピがヒッピーが住む牧場にたどり着いた時は、起伏の少ないストーリーに一気にスイッチが入ったように引き込まれる。
不吉な何かが、起こらないわけがない…急にピンと背筋が伸びるのだ、見事に観る姿勢を誘導してくれる。

そしてそして、そしてである。
今までさんざん幸せだの愛だのと言ってきたが、なんだかんだでやっぱりこの映画で肝心カナメなのはラスト15分だ。
もちろん自分がこの映画が好きなのはディカプリオがかっこよかったり、ブラピがかっこよかったり、マーゴット・ロビーが可愛いからだけではない。
このラスト15分が最高に刺激的だからだ。
ネタバレと書きながらも、やっぱりこの部分だけは伏せておきたい。
ただ、間違い無く言えるのはこの映画のラストの15分はタランティーノの映画の中で(というか自分が観てきた映画の中で)ベスト級にエキサイティングだということだ。

映画に必要な、というより人の感情を盛り上げるのに必要な全てのものが詰め込まれている。
否応無くテンションがぶち上がり、心臓の鼓動が早くなる、まばたきを忘れ、ごくりと唾を飲む。それと同時に、なぜか走馬灯のような幻想めいたものすら感じる。
端的に言えば極上の15分である。映画が表現できる最大のヘブンでありエクスタシーである。

はい、そんなこんなでさらっと書くつもりがいつのまにか長々と書いてしまった。
でもそうなってしまうくらいに、この映画はやっぱりすばらしい。
なんどもいうけれど観ていて幸せを感じる。愛おしく思う。体の中の「ラブ」がどばどば溢れ出てくる。

でも、そんな映画ってきっと誰にでもあるんじゃないでしょうか?
帰り道に恋人や友達と映画の話で持ちきりだったり
登場人物の真似をして帰った映画ってないでしょうか?
もしそんな映画があったら、それはあなたが根源的に求めてる映画かもしれません。

自分も久々に紙のタバコを買って、渋いツラをキメて煙をはきだしました。

ちなみに「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」、自分もめっちゃ好き!!
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ブラピ史上一番カッコよかっ。(過去形です、なぜなら「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」にて塗り替えちゃったから。)
エンディングのPixiesのWhere is my mindも最高。

そんなところでしょうか

では!

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