「天国と地獄」映画レビュー 異常で過剰な黒澤映画

映画
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世界で一番有名な日本映画ってなーんだ?

って聞かれたら、多分大体の人が「七人の侍」と答えるでしょう。
保証はできませんが多分合ってます。

世界で一番有名な日本映画の監督ってだーれだ?

これも多分大体の人が「黒澤明」って答えるでしょう。
これも保証はできませんが多分合ってます。

じゃあ黒澤明の映画見たことある人〜?

し〜ん…
はい。意外に黒澤映画見たことある人って少ないんじゃないでしょうか?
なお、これは30代前後の人へのイメージなのであしからず。

かくいう自分も去年くらいまでは黒澤映画なんて一本も見たことがなかった。
白黒の映画なんてなんだか退屈そうだし、現代映画のCGだったり大爆発だったり大どんでん返しを見慣れている自分に楽しめるのだろうか…という疑念が払拭できなくて、なんとなーく避けてきた黒澤映画。
というか名画と言われるもの全般。

しかし最近になってちょくちょく名作を見るようになって、黒澤映画も少し手を出し始めた。
実際に見てみるとこれがびっくり
「あれ、普通に観れる」
面白いかどうか、それはともかく、とにかく普通にジーっと観ていられるのだ。

まず驚いたことに黒澤映画は結構エンタテイメント性が高い。
なんだか小難しいテーマ性があったり、その時代のことも分からないとあんまり楽しめないんでしょう?と思っていたのだが、普通に現代のハリウッド映画と変わらずにハラハラさせられドキドキさせられ、時々笑わされてしまう。
(むしろテーマ性とかの方が薄い印象。)

そんなわけで今日は黒澤映画の中でも自分が時にエンタテイメント性が高いと感じる
「天国と地獄」についてササッと書いてみよう。

「天国と地獄」は、とある誘拐事件の真犯人を探すスリラー。

「天国と地獄」を観てまず感じるのはストーリーのメリハリのつけ方が異常。
ということ。
メリハリのつけ方がすごい、とか上手い、とかではなく、とにかくもう、なんと言ったらいいのか異常。なのである

実はこの映画、最初の一時間くらいはずーっと密室でうだうだと話し合うだけ。
スタジオ形式が全盛期だったハリウッドの映画のように、密室の室内をずーっと観ているのはいくらお話が進んでいるとは言っても、青空の下のロケなんて当たり前な近代映画に慣れている人間からしたら、なかなか閉鎖感があって少し息詰まるものがある。

だがしかしだ。
一時間ほどするとスコーンと空が抜けるように場面が変わる。
んでこの場面がどこかというと、新幹線なのだ。
まぁ密室は密室でもやはり一気に場面が変わって、しかも超高速で移動する新幹線なわけだから、映画のテンポがガラッと変わって否応にもテンションが上がってしまう。

そしてそこからは場面がめくるめく変わっていく。
いつのまにか息もつけない展開に引き摺り込まれていく。
前半のジリジリしたスローなテンポとは打って変わって、次々に場面が変わり、様々な人々が活躍し、誘拐事件の真犯人を追っていく。

最初は全然進まないなーと思って観ていたら、急に新幹線に乗せられて、色んな人物が出てきて、色んな真実がどんどん明かされていく。
最初ジリジリさせて後で急展開、というのはまぁ色んな映画でやられている事だとは思うんだけれど、この映画だとまず最初のジリジリ時間が長すぎるのに加えて、エンジンのかけかたがとてつもなく急。
まるで話はつながっているけれど全く違った映画を見せられている位にテンポにメリハリがついている。
ここまでくるとメリハリの付け方が上手いとかどうこうじゃなくてもう、異常なのだ。
でもなんだかこの異常さがこの映画の一番の魅力でもあって、この映画でしか味わえない独特のテンションを作り出しているようにも感じる。
そういったところが名作たる所以なんだろう。

黒澤映画をいくつか観ていると、こんな具合に過剰に話を展開させたり、過剰な演出というものが多く観られる気がする。とにかく過剰で異常、が黒澤映画なのだ。
黒澤の映画を見るのはなんだか構えてしまう…という人はこの「過剰」そして「異常」を意識してみるだけでもなかなか楽しんで観られるのではないだろうか。

そしてもう一つ、この「天国と地獄」登場人物の多さにも注目したい。
それこそ最初の一時間は主要人物はわずか4人程度だが、後半になるともう20だか30だかそのくらいの人物がみんなバラバラで活躍する群像劇に様変わりする。
しかも最初の方の人間は一気に蚊帳の外に置かれてしまう。

ここらへんの変わりっぷりもまた異常なわけだけれど、決して話はこんがらがってしまうわけでもない。
その「群像」を成すのは基本的には事件を捜査する刑事たちなわけだが、実際彼らは役名などないに等しい。
しかし実際にこの事件を解決へと導くのは間違いなく彼ら刑事たちであって、彼らの頑張りだったり、チームワークに結構面白みが詰まっていたりする。
それらがこの映画の大きな魅力だと言ってもいいだろう。

おそらくここまで多くの人間が活躍する映画は他には無いだろう。
逆に言えばここまで多く出しといて、しかも活躍させといて、終わったら一人の名前も記憶に残っていないという映画も他にはないだろう。
群像である彼らを、あえて群像のままにして、そのままごそっと観客の脳裏に刻んでしまうのだ。
こんな群像劇があろうものとは…さすが黒澤明…

そんな具合に「天国と地獄は」映画全体のテンポのメリハリの違いも楽しめるし、様々な人々が一丸となって事件を解決する様も楽しめる。
まさに現代人が観てもググーっとのめりこんで観られるエンタテイメント性の高い映画なのだ。

「名作」、「黒澤明」という偉大すぎるイメージに肩肘はるにはあまりにももったいない。
肩の力を抜いて、所詮は昔の映画でしょ。現代映画のスリリングな展開作りは日に日にレベルアップしてるんだよクロサワくん!!
なーんて少し舐めた気持ちで観てもらいたい。

きっと一時間後には「天国と地獄」のスリルから抜け出せなくなっているだろう。
(ちなみに最初の一時間がダラダラしているみたいな書き方をしていますが、全然そんなことはありません。場面が変わらないのにストーリーはぐんぐん進むので普通に楽しめます。)

今日はそんな感じで!!

ちなみにAmazonで¥400で視聴可能とのこと
※レンタル期間は30 日間で、一度視聴を開始すると48 時間でレンタル期間が終了します。

では!!

コメント

  1. ヘイヨー より:

    へ~、「天国と地獄」ってそういう作品だったんですね。全然知りませんでした。

    黒澤明作品で見たことあるのは「七人の侍」「羅生門」「隠し砦の三悪人」「夢」あたりですね。
    細かい部分までこだわって作っている監督という印象が強くあります。

    「天国と地獄」もなかなかおもしろそうですね。
    いわば、サスペンスですか。
    今度、ナメた気持ちで見てみます!

  2. まっこい より:

    初めまして
    ブログ主の方はお若い方かな?
    本映画の面白さについては存分に語られていて異論はありません。傑作だと思います。

    ただ一点、個々で登場する特急列車は新幹線ではありません。新幹線開業前に最速を誇った東海道線の「こだま」号です。後に新幹線の特急名にも使われたので混同しやすいのですが、この映画が作られた1961年にはまだ新幹線は開業していませんでした。

    ご参考までに。